蒼月弓
 〜大戦時代捏造噺

          *原作終焉以降の設定です。


  ―― そういえば、
     再会してからこっちのずっと、
     そう、ずっとずっと同じ格好をなさっていたよねぇ。


世捨て人といえば聞こえはいいかも知れないが、
一見すると、何ともみすぼらしい、
いかにも尾羽打ち枯らした人物というような。
褪めた白もすすけた印象しか残さぬ、
あちこち傷んだ砂防服に延ばしっ放しの蓬髪という、
そのいで立ちを一向に構わぬ風体を、
なさっておいでの勘兵衛様だったよねぇ。

 そんな見かけに相反し

これほど頼りになるお人はないと。
誰にでも気づかせるほど、
その言動や立ち居にと、深々と刻まれている何かがあって。
機敏で精悍な身ごなしとともに、
それはそれは懐ろ深くて豊かな人性をしてなさることが、
どんどんと明らかになってしまわれる。

 だが、だからと言って

誰でも何にでも絆されての許してしまわれるという訳ではないし、
よく言われるように、
自分に厳しく、他人には甘い…というお人でもない。
ご自身の信念ややりようの頑迷さを、決して曲げぬ頑固者だし、
叱言や恫喝もしょっちゅう食らった。
非情な策を構えることへも躊躇はなさらずにいて。

ただまあ、

『軍師としての効率優先か』だの、
『武将としての誇りを何と心得おる』だの、
頭の固い将官らにはそうと罵られた策ではあれ、

実質は…

家名優先とばかりに意地を張っての降伏しない、
そんな年老いた長老の命には逆らえぬとしているのが、
見え見えな集落を落とすのに躊躇しなかっただけのこと。
老人の気概へ情けをかけるより、
犬死にになるのが見えている若い命を多く救って何が悪いかと。
交渉を速めに見切っての強攻策で戦端切って、
あっと言う間に砦を落とした戦功へ、

『そんな恩なぞ知りもせず、
 我らに生き恥晒させたと、やはり恨む者ばかりかも知れぬ。』

なおも言いつのった面々へ、

『さよう、あのような長老に縛られて育った者らならば、
 その恐れも大きにありましょう。』

刃向かうことなくのさらりと言い流した豪気なお方。
たといその通りに恨んだ輩が、
後に長じてその身を狙っても構いはしない。
あっさり討たれてやるほど柔な身ではなし、
そのくらいの意気地があった方が、
後生にも張りが出てのさぞかし雄々しく生きてゆけましょうと。
辛辣な物言いもせぬではなかったお人であり。
そんな部隊であったから、部下らもまた部下らということか。
武将としても軍師としても勇名誇る部隊長が、その実、
不器用で、なのに我がお強くて。
栄達には関心寄せず、堅物頑固なばかりの隊長殿だと気づいても。
そんなお人から、
そこまでの奴かとがっかりされるなんて口惜しいと。
むしろ見込まれてこそ嬉しいと、
勝手に惚れ込んで集ったその末に、
精鋭の頼もしいのばかりが居残った部隊であり。

  お考えが深すぎるお人ゆえ、
  把握出来るのは似たような“ひねもの”にしか不可能とまで、
  言われておいでだったものさね。

その長い長い戦歴にては、
否応無く啜って来た様々な想いもあっただろうし、
数々の修羅場にて強いられただろう苦渋の決断と、
それゆえに身のうちへと刻んだ深き錯綜と。

  散々に彼を打ったそれらが、
  痛手の深さで彼の懐ろをより深々と押し広げ。
  我慢強さを得たと同時、
  戦さのあとには、哀しい孤高へと追いやりもして。


矛盾や後悔や懴悔や怨嗟。
いろいろなもの、捨て置けぬからと背負われたままで。
そういうお人と知っていればこそ、
そんなでいるのが判らないでもないのだけれど。
あんなにも人を好いてるお人が、なのに、
一つところへ留まらぬ生き方をなさってらして。

  居場所があるならそれで重畳と、
  アタシを訪のうて下さらなんだのも そんなせい。

何と構えず弾いた弦が、
鈍い和音を響かせてののち、
月光に染まった円窓の、寒々しい青に溶けて消え。
後に残るは静謐ばかり。
そのつれなさがまた、御主の横顔思わせて、
今頃は何処へおいでなやらと、
切な吐息を零す身の、遣る瀬なささえ眉間に重い。

  遠く近くに渦巻く風籟、
  春までなんぼか教えてくりゃんせ
  愛しき主さま、忘れらるよに……。





  〜Fine〜  10.01.22.


  *大好きだった某勘七サイト様が、
   そのサイトを今日づけで倉庫化なさいまして。
   サーバへの契約切れとともに封鎖と運ばれるのだとか。
   勘七というCPも好きになったのは、
   そちら様の作品を読んだからだったので、
   何とも寂しい限りだなぁと、
   しみじみ思ってしまっての一筆したためてしまいました。
   こんな未練がましいシチさんって
   おかしいですよね、すいません。
   わたしの心情を羽織っていただいたということで…。


めるふぉvv
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